飲食・流通の現場で感じた課題や気づきを記録するノート

KURU フィールドノートは、
飲食店の仕入れや流通の現場で実際に起きていることを、
立場を決めつけず、構造として記録するためのノートです。
特定のサービスを紹介することを目的とせず、
現場で感じた違和感や問いを、そのまま残しています。
  • KURU behindというシステムがあります。

    今は、
    食材卸向けの業務システムとして
    外部への提供を進めています。

    ただ、
    最初からSaaS事業を始めようと思って
    作ったものではありません。

    出発点はもっと単純でした。

    自分たちの仕事が大変だったからです。


    毎日の現場で、小さな問題が積み重なっていた

    私たちは、
    実際に食材を仕入れ、
    飲食店へ納品しています。

    その中で、

    LINEで届いた注文を読む。

    商品を探す。

    注文を入力する。

    欠品なら代替商品を探す。

    加工後に重量が変われば修正する。

    一部だけ翌日配送になれば、
    納品内容を組み直す。

    納品後は請求書を確認する。

    入金されているか確認する。

    一つひとつを見ると、
    特別な仕事ではありません。

    食品卸なら、
    どこでもやっている仕事です。

    でも、
    毎日続けると非常に重い。


    最初は、その場その場で直していた

    問題が起こるたびに、

    Excelを作る。

    管理表を増やす。

    確認項目を増やす。

    担当者を決める。

    最初は、
    そうやって対応していました。

    実際、
    それでも仕事は回ります。

    ただ、
    取引先が増えるにつれて限界が見えてきました。

    人が増える。

    確認が増える。

    管理表が増える。

    そして、
    また管理する人が必要になる。

    仕事を処理するための仕事が
    どんどん増えていきました。


    そこで、自分たちで使う仕組みを作り始めた

    LINEやFAXで届いた注文を、
    もっと簡単に処理できないか。

    注文した内容と、
    実際に納品した内容を
    同じデータで管理できないか。

    納品した金額を、
    そのまま請求につなげられないか。

    毎日一つずつ、
    自分たちの問題をシステムに置き換えていきました。

    最初から
    「これは商品になる」
    と思っていたわけではありません。

    自分たちが使えなければ意味がない。

    その基準だけで作っていました。


    使っているうちに、同じ問題が他社にもあることに気づいた

    卸業者の方々と仕事をする中で、
    少しずつ分かってきたことがあります。

    会社は違っても、
    困っている場所がよく似ている。

    LINE。

    FAX。

    手書き。

    曖昧な注文。

    担当者しか分からない商品名。

    分納。

    請求。

    集金。

    私たちだけの問題だと思っていたものが、
    実は業界の構造から生まれている問題でした。

    それなら、
    自分たちだけで使うのではなく、

    他の会社でも使える形にできるかもしれない。

    そう考えるようになったのが、
    KURU behindを外部向けの製品として作り直し始めたきっかけです。


    現場から生まれたものを、製品にする

    自社専用のシステムと、
    他社が使える製品は違います。

    自分たちなら説明なしで分かることも、
    初めて使う人には分からない。

    自分たちだけのルールではなく、
    別の会社の運用にも対応しなければならない。

    価格も、
    導入方法も、
    サポートも必要です。

    今は、
    まさにその途中にいます。


    私たちは、
    食材流通を外から見て

    「この業界をDXしよう」

    と考えた会社ではありません。

    自分たちで毎日仕事をして、
    そこで困った場所を一つずつ直してきた。

    その結果できた仕組みを、
    今、他の会社でも使える製品に変えようとしています。

    まだ完成形ではありません。

    むしろ、
    現場で使うたびに新しい問題が見つかります。

    でも、その順番でいいと思っています。

    現場で問題を見つける。
    自分たちで使う。
    直す。
    また使う。

    KURU behindは、
    その繰り返しから生まれたシステムです。

  • 業務システムを提案すると、

    「今のシステムを全部置き換えましょう」

    という話になりがちです。

    新しいシステムに一本化すれば、
    データも整理され、
    運用もシンプルになる。

    理論上は、その通りです。

    でも、
    実際の卸の現場に入ると、
    そんなに簡単ではありません。


    今の仕組みにも、理由がある

    長年使っている基幹システム。

    インフォマート。

    Excel。

    FAX。

    LINE。

    電話。

    外から見ると、
    バラバラに見えます。

    「なぜ一つにしないのか」

    と思うかもしれません。

    しかし、
    それぞれが残っているのには理由があります。

    その取引先がFAXしか使わない。

    別の取引先はLINEが早い。

    大手企業とはインフォマートでつながっている。

    経理は今の基幹システムに慣れている。

    一つひとつを見ると、
    それなりに合理的です。


    そして、明日の納品は止められない

    一番大きいのは、
    ここだと思います。

    システムを入れ替えている間も、
    注文は届きます。

    朝になれば、
    商品をそろえなければなりません。

    トラックは出発します。

    店は商品を待っています。

    「今週はシステム移行なので納品できません」

    とは言えません。

    だから現場は、

    多少不便でも、
    動いている仕組みを変えることに慎重になります。

    これはDXに消極的なのではなく、
    事業を止めないための合理的な判断です。


    ならば、全部変えなければいい

    ここで、
    私たちの考え方も変わりました。

    最初から全部を統一しなくてもいい。

    LINEはLINEのままでもいい。

    FAXが残っていてもいい。

    既存の基幹システムも、
    すぐに捨てる必要はない。

    ただ、

    その間に発生している
    人の手作業だけを減らす。

    たとえば、
    LINEで届いた注文を商品マスタに紐づけて、
    今使っているシステムに取り込める形式で出す。

    これだけでも、
    業務は変わります。


    DXの入口は、小さい方がいいこともある

    大規模なシステム変更は、

    予算も、
    時間も、
    社内調整も必要です。

    それに対して、

    「この作業だけ、まずなくしてみる」

    なら始めやすい。

    そして、
    実際に楽になったことを確認してから、
    次の範囲へ広げればいい。

    私たちは、
    こちらの方が現場では自然だと考えるようになりました。


    新しいシステムを入れることが
    DXの目的ではありません。

    今の仕事を止めずに、
    無理なく仕事を軽くしていくこと。

    特に毎日止めることのできない業界では、
    この考え方が重要なのではないでしょうか。

  • 商品を届けたら、
    その金額は当然、請求される。

    普通はそう考えます。

    私たちもそう思っていました。

    しかし実際に
    納品データと請求データを細かく照合してみると、

    必ずしもそうではないことが分かりました。


    問題は、経理の入力ミスだけではない

    請求金額が合わないと、

    「誰かが入力を間違えたのではないか」

    と考えます。

    もちろん、
    そういうケースもあります。

    しかし、
    もっと厄介なのは、

    業務の途中でデータ自体が変化しているケース

    です。

    たとえば、

    10個注文を受けた。

    今日は8個納品した。

    残り2個は翌日に回した。

    途中で数量が変更された。

    一部の商品が代替品になった。

    こうした変更が複数のシステムや帳票にまたがると、

    どれが最終的な正しい数字なのかが
    分からなくなることがあります。


    「受注」と「請求」が別世界になっている

    多くの業務では、

    受注を処理する人。

    配送する人。

    請求書を作る人。

    入金を確認する人。

    それぞれが違います。

    使っている画面やExcelも違う。

    その結果、

    受注時点では正しかった。

    配送時点でも正しかった。

    請求担当も自分の画面では正しく処理した。

    それなのに、

    最後に全部を合わせると数字が合わない。

    ということが起こります。


    金額が小さいほど、気づきにくい

    さらに怖いのは、
    大きなミスより小さなズレです。

    100万円の請求漏れなら、
    誰かが気づきます。

    でも、

    数千円、
    数万円、

    という差は、
    日々の取引の中に埋もれます。

    それが複数店舗で
    毎月繰り返されたらどうなるか。

    一件ごとの問題ではなく、
    会社の利益構造そのものに影響します。


    売上を増やす前に、漏れている売上を見る

    事業をしていると、

    新規顧客を増やす。

    売上を上げる。

    単価を上げる。

    どうしてもこちらに目が向きます。

    もちろん重要です。

    でも実際に自分たちの数字を確認していて、

    「すでに売ったものを正しく請求する」

    という当たり前のことも、
    同じくらい重要だと感じました。


    注文から決済まで、一つの流れとして考える

    そこで私たちは、

    受注
    ↓
    納品
    ↓
    請求
    ↓
    決済

    を別々の仕事として考えることをやめました。

    どの商品を、
    いくつ受注し、

    最終的に、
    いくつ納品したのか。

    そして、
    その金額はいくらなのか。

    最後に、
    その金額が回収されたのか。

    同じデータが
    最後までつながっていれば、
    途中で数字が消える可能性は大きく減ります。


    DXの効果というと、

    「作業時間が何時間減った」

    という話が分かりやすい。

    でも実際には、

    今まで見えていなかった損失を見えるようにすること

    も、非常に大きな価値だと思っています。

  • システム上では、
    一つの注文は一つの注文です。

    商品が7品あれば、
    7品が一つの注文にまとまっています。

    しかし、
    実際の配送現場はそんなにきれいではありません。


    7品すべてが、同じタイミングで揃うとは限らない

    たとえば、
    7品の注文が入ったとします。

    5品は朝までに準備できた。

    しかし2品は加工が必要で、
    今日の便には間に合わない。

    ではどうするか。

    5品だけ先に届けて、
    残り2品を翌日に届けます。

    現場では、
    特別珍しいことではありません。

    問題は、
    システム側です。


    「配送完了」の意味が曖昧になる

    5品を届けた時点で
    注文全体を「配送完了」にすると、

    まだ届けていない2品まで
    完了したように見えてしまいます。

    逆に、
    注文を未完了のまま残すと、

    今日届けた5品が
    まだ配送されていないように見える。

    紙や人の記憶で運用している間は、

    「残りは明日ね」

    で済みます。

    しかし、
    システムにするとそうはいきません。


    現場では「注文」より細かい単位で仕事が動いている

    実際の業務を見ていると、

    注文
    ↓
    ピッキング
    ↓
    出荷
    ↓
    配送
    ↓
    納品
    ↓
    請求

    という一方向の流れだけではありません。

    途中で、

    数量変更、
    欠品、
    代替品、
    翌日配送、
    一部キャンセル、

    さまざまな変更が起こります。

    つまり、

    最初に受けた注文と、最後に納品した内容は同じとは限らない。

    ここを正しく管理できないと、
    後ろにある請求までズレていきます。


    だから「納品したもの」を基準にする

    私たちが運用しながらたどり着いたのは、

    注文単位だけを見るのではなく、

    実際に何を、いつ、どれだけ届けたのか

    を残すことでした。

    一つの注文から、
    複数回の納品が発生してもいい。

    それぞれの納品に、
    何の商品が含まれていたかを残す。

    そして、
    その納品情報を請求につなげる。

    言葉にすると当たり前ですが、
    実際のシステムではここが非常に重要です。


    現場の例外を消すことはできない

    業務システムを作るとき、

    「例外をなくせばシンプルになる」

    と考えたくなります。

    しかし食材の現場では、
    例外そのものをなくすことは難しい。

    天候で入荷が変わる。

    加工に時間がかかる。

    品質を見て商品を変更する。

    当日になって数量が変わる。

    こうしたことは、
    今後も起こります。

    だから必要なのは、

    例外を禁止するシステムではなく、

    例外が起きてもデータが壊れないシステム

    なのだと思います。


    現場をシステムに合わせるのではなく、
    現場で実際に起きていることを
    そのまま扱える構造を作る。

    毎日運用していると、
    この違いの大きさを感じます。


  • 手書きやFAXを扱うシステムを作っていると、

    「OCRの精度は何%ですか?」

    と聞かれることがあります。

    もちろん、
    読み取り精度は重要です。

    数字を間違えれば数量が変わりますし、
    商品名を読み違えれば別の商品になってしまう。

    精度が低くていいわけではありません。

    ただ、実際の食材卸の現場を見ていると、
    OCRの精度だけを追いかけても
    問題は解決しないと感じるようになりました。


    正確に読んでも、正解にならない注文がある

    たとえば、

    「サーモン 1」

    と書いてあったとします。

    OCRが100%正確に
    「サーモン 1」と読み取った。

    それでも仕事は終わりません。

    サーモンにも、

    産地、
    規格、
    冷凍・チルド、
    フィレ・ロイン、
    容量、

    さまざまな違いがあります。

    その店が普段買っている
    「サーモン」がどの商品なのか。

    数量の「1」は、
    1本なのか、1kgなのか、1ケースなのか。

    ここまで判断できなければ、
    納品データにはなりません。


    人間は、無意識に大量の情報を使っている

    担当者は注文を見るとき、
    注文書だけを見ているわけではありません。

    過去の注文。

    その店の商品傾向。

    普段使う規格。

    以前の会話。

    価格帯。

    納品履歴。

    こうした情報を頭の中で組み合わせて、

    「たぶん、これだ」

    と判断しています。

    長く働いている人ほど、
    この判断は速くなります。

    だから一見すると、
    簡単な仕事に見えます。

    しかし新人に同じことをやってもらうと、
    急に難しくなる。

    ここに、
    属人化の正体があります。


    だから、完全自動化だけを目指さない

    もう一つ、
    現場で重要だと感じていることがあります。

    それは、

    最初からすべてをAIに決めさせる必要はない

    ということです。

    候補を出す。

    過去の履歴から
    可能性の高い商品を表示する。

    人が画面を見て、
    最後に確認する。

    間違っていれば修正する。

    そして、その修正を次回に活かす。

    この方が、
    現場ではずっと現実的です。


    「人をなくす」のではなく「人の判断を軽くする」

    DXという言葉を使うと、

    人を減らす、
    完全自動化する、

    という方向に話が行きがちです。

    でも、私たちが実際に欲しかったのは
    そういうものではありませんでした。

    朝の限られた時間の中で、
    何十件もの注文を処理するスタッフが、

    毎回ゼロから考えなくていい。

    過去を探さなくていい。

    ベテランに聞かなくていい。

    画面に出てきた結果を見て、
    確認するだけで仕事が進む。

    それだけでも、
    現場は大きく変わります。


    OCRは入口です。

    本当に重要なのは、
    その文字が何を意味するのかを
    業務データにつなげること。

    私たちは今、
    その部分に一番時間を使っています。


  • 食材卸の受注業務では、
    今でもLINE、FAX、電話、手書きなど、
    さまざまな形で注文が届きます。

    だから、

    「まずは注文をデジタル化しよう」

    という話になります。

    確かに、それは必要です。

    手書きの注文をOCRで読み取る。
    LINEの文章をテキストにする。
    FAXをデータに変換する。

    ここまでできれば、
    かなり仕事が減るように見えます。

    私たちも、最初はそう考えていました。

    しかし実際の現場でやってみると、
    問題はその先にありました。


    読めたからといって、商品が分かるわけではない

    たとえば、

    「生1」

    という注文が届いたとします。

    文字として読み取ること自体は、
    それほど難しくありません。

    問題は、

    「生」が商品マスタの何を意味しているのか

    ということです。

    A店では生サーモンかもしれない。

    別の店では、
    まったく違う商品を「生」と呼んでいるかもしれない。

    さらに、

    「赤2」
    「いつもの3」
    「前と同じ」

    こうした注文もあります。

    文字を正確に読み取ったとしても、
    それだけでは正しい商品にはなりません。


    現場では、人がその間を埋めている

    なぜ今まで仕事が回ってきたのか。

    理由は単純です。

    担当者が覚えているからです。

    「あの店の“生”はこれ」

    「この店は1と言ったら1kg」

    「この商品だけは箱単位」

    こうしたルールが、
    担当者の頭の中に蓄積されています。

    だから注文が多少曖昧でも、
    仕事は回ります。

    しかし、これは裏を返せば、

    システムではなく、人の記憶がマスタになっている

    ということでもあります。


    人が増えても、簡単には解決しない

    取引先が少ないうちは、
    このやり方でも何とか回ります。

    しかし取引先が増えると、
    覚えるルールも増えていきます。

    新人が入れば、
    また一から教えなければなりません。

    担当者が休めば、
    他の人が過去の履歴を探します。

    判断を間違えれば、
    返品や再配送になる。

    仕事が増えたから人を増やしたのに、
    今度は教育と確認の仕事が増える。

    これでは、
    会社が大きくなるほど現場が重くなっていきます。


    本当に必要なのは「読み取り」ではなく「紐づけ」

    この経験から、
    私たちの考え方も変わりました。

    重要なのは、

    注文を読むことではなく、正しい商品につなげること。

    LINEでも、
    FAXでも、
    手書きでも構いません。

    入口が何であっても、

    「この注文は、この商品マスタを意味している」

    という状態まで持っていかなければ、
    業務データとしては完成していません。

    OCRの精度だけを上げても、
    現場の仕事がなくならない理由は、
    ここにあります。


    食材流通のDXでは、
    派手な機能よりも、

    誰かが覚えていなければ成立しなかった仕事を、
    少しずつ仕組みに移していくこと。

    そこが一番重要なのではないかと、
    今は考えています。

  • 飲食店の朝は、仕込みから始まります。

    その合間に、業者が次々と届けにきます。 商品を受け取り、検品し、冷蔵庫に入れる。

    そしてその都度、 紙の納品書が一枚、置かれていきます。

    1日に届く納品書は、5枚から7枚。 業者ごとにフォーマットが違い、 サイズも、記載の仕方も、すべてバラバラです。

    この光景は、 何十年も変わっていません。


    電子化されていないのは、店の問題ではない

    ここで誤解されがちなのは、 「飲食店がITに弱いから紙が残っている」 という見方です。

    しかし実際には、 店側の問題ではありません。

    業者側のシステムが、 そもそも電子化に対応していない。

    多くの卸業者は、 自社の基幹システムから 紙の納品書を出力し、 それを配送と一緒に届ける、 という流れで長年やってきました。

    電子データとして 納品情報を提供する仕組み自体が、 存在していないケースがほとんどです。

    つまり、 紙が残っているのは、 届ける側の構造が 紙を前提に作られているからです。


    その結果、店に「余計な仕事」が生まれている

    届いた紙の納品書を、 店はどう処理しているか。

    多くの店では、 スタッフが一枚一枚、 Excelに手入力しています。

    業者名、商品名、数量、金額。 5〜7社分を、毎日。

    これが、 飲食店が自ら行っている 「納品書の電子化」の実態です。

    本来であれば、 最初から電子データとして届けば 発生しない作業です。

    しかし、 業者側にその仕組みがない以上、 店が自分の手で変換するしかない。

    本業だけでも手一杯の現場に、 もう一つ仕事が増えている。


    紙を求める文化も、確かに存在する

    一方で、 構造だけが原因ではない側面もあります。

    電子データで納品情報を提供しても、 「紙でもほしい」 という声は、実際にあります。

    手元に紙がある安心感。 目で見て確認できるという感覚。 長年そうしてきたという習慣。

    これは、 ハンコ文化と似ているかもしれません。

    合理性だけでは説明できない、 社会に深く根づいた慣習として 存在しています。


    ただ、その慣習がコストになっている

    紙の納品書が残り続けることで、

    ・店は毎日、手入力の作業に時間を取られ ・業者は印刷・配布のコストを負担し ・情報は分散したまま、集約されない

    この循環は、 誰かが意図して作ったものではありません。

    ただ、結果として、 現場の生産性を確実に下げています。


    変わらないのは、変える手段がなかったから

    飲食店も、業者も、 好んで非効率を選んでいるわけではありません。

    変える手段が、 これまで存在しなかっただけです。

    もし、

    ・すべての納品情報が一つに集約され ・紙が必要な場合にも対応でき ・店は一つの窓口だけを見ればいい

    そういう環境があれば、 納品書を手入力する必要はなくなります。

    私たちは、 この課題に対して一つの形を作りました。

    まだ小さな取り組みですが、 実際に使っている現場からは、 一度この流れを経験すると 元には戻れない、という声をいただいています。


    紙の納品書がなくなるかどうかは、 まだ分かりません。

    ただ、 紙であることが前提だった時代は、 少しずつ終わりに近づいている。

    そう感じています。

  • 飲食店にとって、最も大切な仕事は何か。

    それは、目の前のお客様に向き合い、 おいしい料理を届けること。

    これは間違いありません。

    ただ、その料理を作るために、 売上の30〜40%という大きなコストが 仕入れに使われています。

    本来であれば、 この30〜40%をどう管理するかが、 店の利益を大きく左右するはずです。

    しかし現実には、 仕入れの管理に十分な時間を割ける店は ほとんどありません。


    本業があるから、仕入れは「任せる」しかない

    飲食店の現場は、 本業だけで手一杯です。

    接客、調理、スタッフ管理、衛生管理。 それだけでも一日が終わります。

    その中で、 仕入れ先を比較し、 価格を見直し、 業者を検討する余裕は ほとんど残りません。

    結果として、 多くの店は 「今の業者に任せておけば大丈夫だろう」 という判断になります。

    言えば用意してくれる。 頼めば対応してくれる。 長年の付き合いがあるから、分かってくれている。

    この「信頼」と「慣れ」が、 仕入れの管理を代替しているのが現実です。


    その信頼は、間違いではない

    誤解のないように書いておきたいのですが、 この関係性は、決して悪いものではありません。

    業者もまた、 店に対して感謝を持ち、 できる限りのサポートをしています。

    急な発注にも対応し、 欠品があれば代替品を提案し、 時には値引きにも応じる。

    飲食店と業者の間には、 確かに信頼と呼べるものが存在しています。


    ただ、信頼だけでは店は守れない

    問題は、 その信頼が 「管理の代わり」になってしまっていることです。

    仕入れを管理するということは、

    ・何を、いくらで買っているのかを把握すること ・他の選択肢と比較すること ・条件が妥当かどうかを判断すること

    これらは本来、 信頼とは別の領域にある作業です。

    しかし現場では、 信頼があるからこそ、 この作業が省略されてしまう。

    「あの業者に任せているから大丈夫」 という安心感が、 管理しない理由になっている。

    そしてその結果、 月に10万円、 場合によっては100万円単位の差が 気づかないまま積み上がっていきます。


    「変えよう」と思っても、戻ってくる

    興味深いのは、 多くの店が一度は 「見直そう」「変えよう」と考えることです。

    原価が合わないと感じたとき。 他の店の話を聞いたとき。 利益が残らないと気づいたとき。

    でも、その決意は長く続きません。

    なぜか。

    本業が忙しすぎるからです。

    「変えよう」と思った翌日も、 朝から仕込みがあり、 ランチが始まり、 ディナーの準備に追われる。

    その中で、 新しい業者を探し、 条件を比較し、 切り替えの手間を考えると、

    「まあ、今のままでいいか」 「どこも大体同じだろう」

    という結論に戻ります。

    これは怠慢ではありません。 本業を優先した結果の、 合理的な判断でもあります。


    もう一つの現実:毎日5〜7社が出入りしている

    見落とされがちですが、 飲食店には毎日、 5社から7社の業者が出入りしています。

    それぞれが紙の納品書を置いていく。

    この光景は、 あまりにも日常的で、 誰も疑問に思いません。

    しかし冷静に考えると、

    ・5〜7社それぞれと連絡を取り ・それぞれの納品書を確認し ・それぞれの請求を管理する

    この作業自体が、 すでに大きなコストです。

    それでも、 この構造が「普通」として 受け入れられている。

    業者を変えるどころか、 今の状態を維持するだけでも これだけの負担がかかっている。

    その認識すら、 現場では薄れてしまっています。


    変えられないのは、意志の問題ではない

    飲食店が業者を変えられない理由は、 やる気がないからでも、 判断力がないからでもありません。

    ・本業だけで限界を超えている ・信頼が管理の代替になっている ・比較する余裕も仕組みもない ・変えようと思っても、日常に引き戻される

    この構造の中にいる限り、 「変える」という選択肢は 最初から存在していないに等しい。

    そしてその間にも、 仕入れコストは静かに積み上がり続けています。


    これは特定の店の話ではありません。

    飲食店を運営する中で、 何度も目にしてきた、 ごく当たり前の風景です。

  • B2Bの現場で、
    ずっと当たり前のように存在してきたものがあります。

    それが「未回収リスク」です。

    支払い方法はバラバラ。
    ある取引先は月末締め翌月末払い。
    あるところは週締め。
    あるところは10日単位。

    請求書は、
    本部に送ったり、現場に送ったり、
    「届いていない」「無くした」「もう一度送ってほしい」。

    正直、珍しい話ではありません。

    問題は、
    この“当たり前”を処理するために、どれだけの人と時間が使われているかです。

    期限内に支払われない取引先は、
    体感で3割ほど。

    そのたびに
    ・電話をかけ
    ・確認をし
    ・再請求をして
    ・場合によっては回収に行く

    当然、人が必要になります。
    その人件費は、どこへ行くか。

    最終的には、
    商品価格に上乗せされるしかありません。

    つまり、

    未回収リスク
    ↓
    人件費増加
    ↓
    コスト上昇
    ↓
    価格転嫁

    この循環が、ずっと続いてきました。


    不思議なのは、
    私たちの周りではすでに電子決済が当たり前になっていることです。

    B2Cでは、
    カード決済が使えない店は選ばれなくなりました。

    でもB2Bでは、
    「手数料が高いから」
    「業界的に無理だから」
    という理由で、導入されないままです。

    確かに、3%は軽くありません。
    利益率の低い業界ほど、重い数字です。

    ただ最近、現場では少しずつ変化も見え始めています。

    「これからはカード決済でお願いしたい」
    「対応できないなら、取引を見直したい」

    まだ少数派です。
    でも、飲食店のカード決済も最初は同じでした。

    未回収リスクを
    “現場の努力”で解決し続けるのか、
    “構造”として減らしていくのか。

    今、ちょうどその分岐点に来ているように感じています。

  • 個人向けの決済は、
    ここ数年で一気に電子化が進みました。

    クレジットカード、
    QRコード決済、
    非接触決済。

    現金を使わなくても、
    ほとんど困らない環境が
    すでに整っています。

    一方で、
    B2Bの取引はどうでしょうか。


    B2Bでは、今も請求書と振込が前提

    卸取引や業務用の取引では、
    今でも

    ・請求書を発行し
    ・銀行振込で支払う

    という流れが
    当たり前のように続いています。

    FAXや電話が残る現場では、
    この形が
    長年「普通」として
    受け入れられてきました。


    電子決済が進まない理由は、技術ではない

    ここで誤解されがちなのは、
    「B2BはIT化が遅れているから」
    という見方です。

    しかし実際には、
    技術的な問題は
    ほとんど存在しません。

    システムはあります。
    サービスもあります。

    それでも進まない。

    理由は、
    構造の問題にあります。


    最大の壁は、決済手数料

    B2B取引では、
    取引金額が大きく、
    利益率は低いケースが多くあります。

    その中で、
    クレジットカードなどの
    電子決済を導入すると、
    約3%前後の手数料が発生します。

    この3%は、
    B2Bの現場では
    非常に重い数字です。

    ・すでに薄い利益
    ・価格競争
    ・原価高

    こうした状況の中で、
    簡単に吸収できるコストではありません。


    「便利さ」と「負担」が一致しない

    電子決済を導入すれば、

    ・集金リスクは減る
    ・事務作業は楽になる
    ・未回収の不安も減る

    理屈では、
    メリットは明確です。

    しかし、
    その便利さの対価として、
    毎回確実に発生する手数料を
    誰が負担するのか。

    この点で、
    多くの現場は
    立ち止まってしまいます。


    支払う側も、受け取る側も余裕がない

    電子決済が進まないのは、
    どちらか一方が
    抵抗しているからではありません。

    支払う側も、
    受け取る側も、
    余裕がない。

    ・飲食店は利益が残らない
    ・卸業者は回収コストを抱えている

    その中で、
    新たな固定費や手数料を
    受け入れる判断が
    難しくなっています。


    だから、人が間に入り続ける

    結果として、
    人が間に入る構造が
    温存されます。

    ・請求書の確認
    ・入金チェック
    ・未回収の連絡
    ・再請求

    本来、
    仕組みで処理できる部分を、
    今も人が支えています。

    これは非効率ですが、
    現状では
    最も現実的な選択肢でもあります。


    電子化が進まないのは、合理的な結果でもある

    B2B決済が電子化されない現実は、
    怠慢や遅れの結果ではありません。

    低い利益率、
    分断された取引構造、
    手数料前提の決済モデル。

    これらを前提にすると、
    今の形は
    ある意味、合理的な結果とも言えます。


    本当に必要なのは、決済だけの話ではない

    重要なのは、
    決済を電子化すること自体ではありません。

    ・取引情報が整理され
    ・流れが一つになり
    ・人が介在しなくても回る

    そうした構造があって、
    初めて決済の電子化が
    意味を持ちます。

    決済だけを切り出しても、
    現場は楽になりません。